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2007年10月7日~8日
やさしくて少しなつかしい、大人たちの夏休み…
「郵便配達夫の恋」
夏の終わりには、沖合に鯨たちの姿も見られる、灯台の島。都会の暮らしに少し疲れ、母の一周忌を口実に、あかりが久しぶりに訪れたふるさとはそんなところ。昔と変わらぬ祖父との間でゆっくりと流れる時間の中、母の遺品を整理していた彼女は、その中に投函されなかった一通の手紙を見つける。手紙の宛先には、島の郵便配達夫として日々誠実に職務をこなす森尾の名前、そしてその手紙の中には、母から森尾に向けた、深い感謝と親愛の情がつづられていた……。
鈴木保奈美の主演で話題となった初演以来、10年ぶりの公演となる本作品は、主役のあかりにオセロの中島知子、郵便配達夫の森尾に辰巳琢郎、あかりのマネージャーに、演劇集団キャラメルボックスの西川浩幸、あかりの祖父に劇団☆新感線の逆木圭一郎という、実力派と個性派で揃えられた4人の役者によって演じられる、静かな哀しみとやさしさの交錯した舞台。開演前から劇場内に流れる波の音、いかにも小さな島である様子をイメージさせる坂道、時に家の、そしてまた時には沖合の漁り火をもイメージさせてくれる小さな照明など、セットや音響への気配りも行き届き、落ち着いた舞台が創り出されていた。
東京で歌手として活躍しているあかりだが、その生活の公私に渡って大きな影響を与えてきた、とある人物との間の関係性に、昔ほどの確信が持てなくなってきている。悩みと迷いばかりが心を支配するようになってしまい、逃げ帰るように戻ってきたふるさと。ゆったりと時間の流れる島の生活が与えてくれた、ささやかな「癒し」は、あかりにとってかけがえのないものではあったのだけれど、それは彼女が抱えている悩みのすべてを消し去ってはくれない。そればかりか、あかりにとっては、すべてを投げ出して飛び込めば良いだけの場所だと思っていた場所すらも、決して単純に時の流れに身をゆだねていれば良いだけの、自分本位な楽園ではなかったことがわかってきたことで、一旦は落ち着きを取り戻しかけた彼女の心にも、新たな波紋の元が生まれていく…。
本当のことではないのなら、本当のことを知れば物事は解決するものなのか、真実の反対にあるのは常に嘘だけなのか…。そんな、切り方次第ではいくらでも重くなるテーマに、静かに、そしてゆったりと取り組んでいくのがこの舞台。取り立てて大上段に構えるわけでもなければ、派手な愁嘆場があるわけでもない。登場するごく少数の人々の心の中にあるさまざまな想いは、時にまだるっこしさを感じるほどに伝わるまでに時間がかかってしまう。そう、まるで森尾が毎日配達している手紙のように。だが、その「間」の中にこそ、人がじっくり練り上げ、かたちにしていく想いの元が存在しているのかもしれない、という気持ちにさせられる。
奔放さと繊細さを併せ持つ女性に中島知子。その人となりが、折り目正しくきちんとした姿勢からも見て取れる辰巳琢郎、悠然とした好々爺として存在感を見せる逆木圭一郎、そして比較的まじめな立ち位置にある3人と絡み、笑いを引き出す西川浩幸。4人の控えめながらも確かな演技から引き出されるもの、それは自分にとってはすでに過去のものであるはずの、「終わりの近づいた夏休みの日々」の感傷。ちょっとむず痒いそれを心の隅から引き出され、もう一度展開してみせられることで感じてしまう、少しばかりの気恥ずかしさを含んだ限りない懐かしさが、見終わった者の心にしみじみと浸っていく。text /Osamu Kato








