新神戸オリエンタル劇場
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2007.8.4

「今年はこの髭を残したままでやるんですよ。ジジィっぽくていいでしょ」
 
今や夏の風物詩とまで言われるようになったミステリーナイトツアー、「稲川淳二の怪談ナイト」。記念すべき15年目のテーマは「怪談還暦」。ツアー真っ最中の8月21日、稲川氏は60回目の誕生日を迎える。
 
「実は還暦になるのを楽しみにしていたんですよ。例えば、田舎へ遊びに行って、食事が終わったら、ジィさんがポツリポツリと話し始める。聞くともなく聞いていると、だんだん面白くなってきて、寝るのも惜しくなってきて、しまいには怖くて眠れなくなる…そういう怪談に憧れていたというか。ある程度、自分がジィさんになったほうが『らしい』なと。60歳になると『おジィちゃん』と言われてもおかしくないでしょ。そんな感じで話したかったんです。日本の怪談の“本当の怖さと面白さ”を出していけたらなと」
 
舞台美術も今年は田舎の農家をイメージしたものになるとのこと。怪談といえば、何もない暗い舞台にロウソクを立てて、椅子に座って…と思われるかもしれないが、毎年、見事に造られた舞台セットが、この公演の魅力のひとつともなっている。
 
「修学旅行の旅館で布団に潜りながらとか、夜の海辺でたき火を囲みながらとか…自分の家と違うシチュエーションで聞くから怖いことってあるでしょ。怪談は状況が大事。『人』も、その要素です。お客さんに対して『聞かせる』んじゃなくて、聞いている人間のリアクションも主役のひとつなんですよ」
 
鮮やかな情景描写、擬音を巧みに操る話術…記憶された文字や言葉を辿っていくものではなく、頭のなかに展開される映像を独特の語り口調で表現する稲川怪談。聞く者の脳裏には、“それぞれの”映像が浮かびあがる。

「自分が絵を説明する人間だから、聞く人にも絵にしてもらいたいと思っていて。だけど例えば、同じ故郷(ふるさと)のイメージでも、山のふもと、海のほとり、下町のはずれ…人それぞれ違う印象があるでしょ。それを壊したくない。いい怪談ってのは、場所や時代、状況をはっきり言わないもの。信憑性を持たせるのは“逃げ”だと思うんですよ」
 
各々が自分の経験やイメージとオーバーラップさせられる余地があってこそ、恐怖は倍増する。それが怪談の“本当の怖さと面白さ”だと語る稲川氏。稲川怪談の原点とも言える「赤い半纏」はその好例だ。四半世紀以上前、ラジオに投稿された話を稲川氏が語り、一躍、日本を代表する怪談のひとつとなった。「♪あか〜いハーンテーン着せましょか〜…」という歌をご存知の方は多いと思う。
 
「簡単な話なんだけど、よく出来ている。まさに良い怪談の見本。怖さだけじゃなく、その向こうに懐かしい故郷の匂いがある。人間って切羽詰まったとき、逃げ場がないときに、故郷…過ぎてきた過去に思いを馳せるでしょ。だから余計に怖いんです。だけどこの話をずっと調べていくうちに…話の裏にある恐ろしくも悲しい背景が見えてきたんです」
 
「赤い半纏」の真相。それを語るのは、そこに信憑性を持たせるのは…彼が悩むのも無理はない。「今さら生々しくしないほうがいいじゃないか」と迷いに迷ったという。しかし。
 
「赤いちゃんちゃんこを着る年になってみて、もう一度、赤い半纏の話に向き合おうかなと」
 
15周年ツアーのもうひとつのキーワードは「原点回帰」。原点を見つめ直した改編作と、原点に立ち返った新作とが同時に楽しめるに違いない。舞台は約2時間。怪談90分、心霊写真解説30分という構成だ。例のごとく、写真にはまだ目を通していないそうだが、スタッフいわく「強めの新作が多い」とのこと。当劇場での公演も今回で5年目というひとつの節目。
 
「関西はノリがいい。怪談でノリって言われても、イメージしづらいかもしれないけど、騒ぎながら怖がるからいいんです。神戸は大阪のノリに加えて、大人のお客さんも多くて、ちょうどいい雰囲気がありますよ。都会生まれの人にも、日本の故郷のイメージってあるでしょ。そんな田舎のおジィさんのところへ遊びに来る感覚で、足を運んでほしいですね」
 

恐怖は最高の娯楽――「怖いけど面白い」という言葉の真相は、体験してこそ明らかになるだろう。


 


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