「とにかく楽しく、お客さんが喜んでくれて。印象には残ってもメッセージ性があるわけでもなく、見終わったあとにはカラッとして、感情的には何も残らないような。作っている側が楽しんでいることが、かけ算になってお客さんにも効率よく伝わること…それ以外の目的は、少なくとも僕にはないですね。教えてやろうとか、気づかせてやろうとか、高邁なことはなく。本当に楽しむだけのエンタテインメントであればいいと思っているんです」(松尾貴史氏・以下同)
TV・ラジオはもとより、映画・舞台、声優、はたまたエッセイ・折り顔など、幅広い分野で活躍する松尾貴史と、舞台演出家・劇作家・演劇プロデューサーでG2による演劇ユニット、AGAPE store。1998年の旗揚げ以来、「好きなことを好きな時にやる」をモットーに公演を続けてきた彼らが、第12回目に選んだ公演のキーワードは、「やらせ」「村おこし」そして「再生」。
「インチキっぽいものをやりたいな、っていうのはありました。これまでも要素としてはやってきたけど、“それ”自体がペーソスとおかしみを持っている世界観って何かなって思うと…みんなは真剣に取り組んでいる“けど”っていう状況がいちばんおかしくて。真剣に取り組まざるを得ない状況っていうのは、財政が逼迫していたり、観光客が少なかったりする地域の村おこしだったり。でも貧すれば鈍するっていうか、真剣になればなるほど、センスがずれていくような感覚が面白い。そういうユルい下地が裏テーマにはなるかな、というのは感覚的にはありました」
これといった産業も観光地もないある村に、「謎の生物」が出現。日本中が大騒ぎし、村は大いに盛り上がった。そして20年後…。ブームはすっかり風化し、舞台となる野間口湖には、今も謎の生物「ノッシー」を見るための展望デッキが残されている。そこへ「発見20周年」記事の取材のため訪れたと記者、集まってきた村人、そして謎の男たち。湖畔に繰り広げられる会話の中から、それぞれの破れた「夢」と後戻りできない「現実」が浮かび上がり…やがて、ゆっくりと未来への「再生」という時間が流れ始める。
「架空の恐竜で盛り上がって廃れた悲しさとか脱力感とかが、僕とG2が持っている世界観の共通部分にスパッとはまったプロットだったんで、すぐこのアイデアに乗りました。キャスティングも理想的。みんなアイデアも豊富で、魅力的な役者さんたちばかりだから、面白いものになることは間違いない。すごく安心しきってますね。緊張材料と緩和材料が上手く交錯して、いい化学反応が起こるんじゃないかと」
脚本を担当するのは桝野幸宏。「きらきらアフロ」「ナンボDEなんぼ」「ちちんぷいぷい」などのTV番組を担当する、関西ではお馴染みの構成作家だが、劇作家としてもその卓越した台詞センスに定評がある。出演は、松尾氏がその“説明不能のキャラクター”に惚れ込み、長年ラブコールを送り続けてきたという、ペンギンプルペイルパイルズの看板女優・ぼくもとさきこをはじめ、それぞれの役どころにベストマッチした絶妙な布陣で固められた。
今回の公演では、シリーズものや、企画もので膨らんできた観客動員数を敢えて抑える劇場をセレクト。濃密な空間で、不思議な笑いを創造しようということだが…。
「新神戸オリエンタル劇場は、10何年か前に観に来た頃から、いい劇場だなぁと思ってずっとやりたかったんですよ。僕が神戸で生まれ育っているんで、そこで何か出来るっていうノスタルジックな感情もあるんだけれど。震災の頃なんかから雰囲気が相当、変わってて、街が明るくなっている。そこで楽しんでもらえて、こっちも楽しめる予感に胸を膨らませている状況です。見て後悔することはたぶんないけど、見なくて後悔する可能性はおおいにありますんで、ぜひよろしくお願いします」 |