新神戸オリエンタル劇場
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このコラムではその時々の旬なテーマを、
季節感たっぷりに綴りたいと思っています。
初回である今回は、
日本人にとっては“春”という季節に切り離せない
“花”が関連する舞台の話です。
勘の良い方は、もうお解りですね? 日本人の大好きな“春の花”と云えば、そう“桜”です。そして桜の関連した作品と云えば「桜の園」。ロシア人作家であるチェーホフが1903年に発表した戯曲です。
  
ントン・チェーホフは1860年に南ロシアの港町に生まれます。彼は最初から作家であった訳ではなく、なんと医師でした。そして「かもめ」、「ワーニャ伯父さん」、「三人姉妹」など次々と優れた作品を発表し、トルストイやドストエフスキーと並ぶほどの賞賛を浴び、地位を得ました。その後、44歳の若さで肺結核にて短い生涯を終え、「桜の園」は、チェーホフにとって最後の作品となるのです。
 
ェーホフの芝居はシェークスピア同様に世界中の国で愛され、時を超え何度も上演され続けており、ことに黎明期の日本の演劇界に与えた影響は非常に大きいものでした。日本における「桜の園」の初演は大正4年7月(1915年)、帝国劇場での上演です。
 
の「桜の園」は、チェーホフ自身は喜劇として執筆した作品だったのですが、初演時に演出家はその物語の中に流れる悲劇的なドラマ性に着目し、原作者であるチェーホフは、解釈の相違に抗議したと伝えられています。チェーホフ存命時のロシアでさえ解釈が異なるほど奥深い本作品は、世界中で上演される際も潤色がなされ、「悲劇性」を強調した演出もあれば、「喜劇」として演出される舞台もあるなど、多彩な顔を魅せます。日本では、ことに黎明期に築地小劇場が当てて以来、「悲劇性」が定着していたきらいがあるのですが、近年、各地で上演されるものには、「喜劇」としての演出のものも増えてきており、時代の移り変わりが反映されていることを物語っています。
 
「桜の園」が、これほどまでに日本人に愛される理由は、単純にタイトルの“桜”に対する日本人の勝手な愛着の現れだろうと考えられがちですが、実はチェーホフは非常に日本贔屓だったという一説もあります。ですから日本への想いがタイトルの“桜”に込められていると思えば、日本人がこの作品に魅かれてしまうのは無理のないことのかもしれません。
 
本にて「桜の園」のラネフースカヤ夫人を演じ有名なのが、女優・東山千栄子です。小津安二郎監督の名作「東京物語」の母親役と言えば、パッと顔が浮かぶ人も多いでしょう。彼女は輸入業の夫の仕事でロシアに渡り、そこで演劇に接し、35歳で女優を目指したという希有な人物。築地小劇場に参加し、後に俳優座に加わり、ずっと「桜の園」のヒロインを演じ続け、当たり役としました。この「桜の園」のヒロインであるラネフースカヤ夫人は貴族階級の人物設定ですが、東山自身も貴族の出身であるという偶然も不思議な縁を感じます。
 
ェーホフは2004年に没後100周年を迎えました。今や彼の作品の与えた影響は、日本は勿論、英国や米国の演劇界のみならず多くの作家にも影響を与え、また多くの評論家を生みました。「桜の園」は彼の他の戯曲と共に今後もその時々の時代を反映させながらも、世界中で愛され上演され続けていくことでしょう。
text & Illustration/ Taro Kasai
◆プロフィール
笠井太郎
(TARO KASAI)
ライター&イラストレーター
札幌生まれ東京在住
創形美術学校卒業後、松竹シナリオ研究所を経て
市川崑監督の下に学ぶ。
その後、企業コピーライターなどを経て現在に至る。

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