アカペラ【a cappella】という単語を辞書で引いてみると、イタリア語の副詞で“(合唱が楽器の)伴奏なしで、教会音楽ふうに”とあります。キリスト教とたいへん関わりの深い神聖な音楽スタイルであり、その原型に近いものとして広く知られているのが、“癒し系”ミュージックとしても人気が高いグレゴリオ聖歌でしょう。近年の世界的なブームは、その響きの中に遠いルーツを多くの人々が聴き取ったからかもしれません。
とはいえ、最近のポピュラー・ミュージックにおいてアカペラといえば、ソウルフルで“黒い”イメージなのはわざわざ指摘するまでもないこと。そして、それが同じ教会で米国のアフロ・アメリカンたちが集う教会において育まれてきた“ゴスペル”に端を発していることも、多くの方がご存じでしょう。ちなみに、ゴスペルは現在のブラック・ミュージックの根底にもしっかりと息づいていて、あのビヨンセを輩出したデスチャことデスティニーズ・チャイルド(グループ名自体が聖書から取られている)もアルバムには必ずゴスペル・ナンバーを収録していたし、実力派R&Bシンガーのほとんどが子供の頃に教会や聖歌隊で歌っていた経歴の持ち主。コンサートのクライマックスにおいて、シンガーが伴奏を止めて神々しいまでに歌い上げる部分は、現代アカペラの極致と言っていいでしょう。
日本でも、早稲田大学のアカペラ・サークルで結成されたゴスペラーズを筆頭に、テレビ番組の人気コーナー「ハモネプ」の影響もあってよりカジュアルに親しまれるようになったアカペラ。ですが、そのポップスにおける歴史は長く広く、1960年に結成された和製ドゥー・ワップの草分け的存在であるキングトーンズをはじめ、のちにラッツ&スターと改名したシャネルズ、さらには山下達郎も自らの声のひとり多重録音によるアカペラ・アルバムの傑作『オン・ザ・ストリート・コーナー』を残すなど…、独自の発展を遂げてきました。メロディの良さを際立たせる重層的なハーモニー、楽器のパートもあえて声に置き換えることによって増してくる、ギミック的な面白さだけではないヒューマンな味わい。最近ではテレビCMでも話題を集めたAFRA(アフラ)を代表格とするヒューマン・ビート・ボックスや口(くち)スクラッチなど、ヒップホップからの影響も加わって、アカペラは完全に“カッコいい音楽”として若い音楽ファンたちから受け止められています。90年代以降の世界の音楽シーンの最先端をリードし続けるアイスランドの歌姫・ビョークが、最新作『メダラ』を人間の“声”のみで制作したことも、まだまだ記憶に新しいところです。
ロックやクラシックよりもはるかに歴史が古く、さらにはまだまだ未知の可能性を秘めたアカペラ・ミュージック。まさに「すべての道はローマに通ず」という格言があるように、すべての音楽もまたローマ、いや“ア・カペラ”に通じているのかもしれません。
■新神戸オリエンタル劇場の“ア・カペラ”
→THE SUPER ACAPPELLA SHOW! vol.396
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